デスクライトは言葉を話し

 

デスクライトは言葉を話し
唯一の友達になってくれたけれど
自分が命を持っているという考えには
否定的だった

 

不登校の時代と
醜形恐怖症の時代を
のりきれたのは
毎晩の
デスクライトとの
会話の
おかげだった

 

「俺は生きていないし
お前の
友人でもないよ
自分の意思を伝えることと
自由に光ることが
できるだけだ

 

物と人間のあいだに
人間が思うような
心の交流はないし」
(一瞬、彼は消えた)
「…物が安らげるような
間や静けさは
人間の」
(また、消えた
こんどは長く)
「範疇のなかにはない」
(そして、彼は点いた)

 

「俺たちは
会話をしたことなんてないよ」

 

薬を飲めば働けるようになり
毎日の調理に気を遣うようになり
理解のある友人を
集めたサークルが開かれるようになったころ

 

夜には疲れ果てるようになり
ベッドは
眠りにつくまでの
一瞬だけあればいい場所になった

 

眠りにつく寸前
ふと目を開けて
部屋の反対側を見つめると

 

デスクライトはずっと消えたまま
彼の範疇にある時間と沈黙を
ゆったりと感じながら
そのなかにこもっていた