完全制覇者はいまだ4人(のべ5回)のみ

 

 最近、「SASUKEの歴史チャンネル」でSASUKEの歴史を勉強するのにはまっている。1997年からTBSで放送されているスポーツバラエティ番組で、出演者は「ローリング丸太」「そり立つ壁」といったアトラクションで構成されたアスレチックの攻略を目指す。世界165か国と日本発としてはもっとも世界各地で放送されているパッケージであり、現在の日本でも「15連サーモンラダー」「クリフハンガーディメンション」といった高難易度エリアをどんどん増築、インフレーションを続けながら年に一度放送されている。

 

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 SASUKEの歴史に、かなり文学を感じて、ため息をつきながら視聴していた。文学ポイントその1は、SASUKEにすべてをささげた男「山田勝己」の存在である。

 

 仕事をクビになるほどSASUKEに打ち込み、いっときは完全制覇にいちばん近い男と言われていた山田さんだが、本番では見ているこっちがショックを受けるような切ない敗退をくりかえす。

 いちばん心にグサッと来たのは、第8回大会のガムテープのエピソードである。

 

第8回大会終了後、SASUKEを諦め切れなかった山田は番組宛に手紙を出し、自身の引退を撤回。第9回大会のへの出場を表明した。

大会前に精神面を鍛えようと四国の山中(徳島県:星谷寺、不動の滝)を訪れ、滝に打たれた。体重を7kg落とし、仕上がりも順調だった。そして大会前日、家族あてに手紙を書き、「このまま終わってしまってはいけない。親として、夫としては失格かもしれないけど、夢を諦めるわけにはいきません」と書き残し、家族を残し、ひとり緑山へと向かった。

同大会は、1stそり立つ壁を2度目にクリアし、余裕を持って1stをクリア。

続く2ndで、先に挑む挑戦者達がスパイダーウォークの下り部分で滑り苦戦。長野誠に滑ることを確認した山田は、地下足袋にあらかじめ滑り止めスプレーをつけた上でスパイダーウォークにたどり着くまでにゴミがつかないようにそれを粘着テープで覆うという二重の徹底対策で2ndに挑戦。

スパイダーウォーク挑戦前に地下足袋の裏の粘着テープをはがす予定であったが、テープが上手くはがれず、さらに手にも滑り止めスプレーをつけるかで悩んでしまったため、挑戦前に17秒(実況の古舘より)のタイムロス。問題の下りの部分は危なげなくクリアできたが、このタイムロスがたたり、結果的に最終エリアのウォールリフティングの2枚目でタイムアップとなる。山田はその後のインタビューで「テープ貼ったのが間違いでした。最悪や」と語り、考えが裏目に出る格好となった。

山田勝己 - Wikipedia

 

 冷静に見ると面白くてしょうがないのだけれど、当事者やそれに近いところで見守っているひとにとってはぜんぜん笑えなくて、客観的には笑えることが主観的な悲劇となって突きつけられる、というのは文学作品ではよく使われる手法だが、それとおなじことが現実に(しかも、これだけじゃなくなんども)起きていて、親身になって観ている身としては身を切られるように切ない。

 

 SASUKEの歴史チャンネルの中心的コンテンツである「SASUKEの歴史を振り返る」では、そのような山田勝己の生きざま、そしてそれを翻弄する残酷な運命が、シンプルながらも、それだからこそ語られている内容の熱量を邪魔しない、素晴らしい文体のナレーションで真に迫って描き出されている。

 

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 「【SASUKE】年表で振り返るSASUKE、10分で歴史を見る」より。やっぱりどう見ても面白いのだけど、これは切ないグラフなのである。