『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ 「よく知らないひと」について私たちが知っておくべきこと』

 

 マルコム・グラッドウェルさんの『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ』を読んだ。いろいろなところで話題になっている本であり、実際に素晴らしい本なのだが、そういうすごい本ってじつは個人としては読んでも読まなくてもそんなに変わらないこともある(こういうことが書かれているだろうな、と予想していたのとだいたいおなじことが書いてあったり、自分が読まなくてもみんなが読んでいるのでどんどん世界に浸透していって特別な知識ではなくなったりする)のだけど、この本は実際に自分で読んだほうが良い。

 その理由をふたつあげて、今日はおしまいにしましょう。

 

理由1 面白い

 「警察官が女性の運転する車を交通違反で止めた。彼女は自殺してしまった。なにが起こったのか?」というウミガメのスープの問題を解き明かしていくような500ページだ。

 この謎を解き明かすために、私たちは、辛抱強く、ひとつひとつ証拠を積み重ねていく。ヒトラーの野望を見定めるべくドイツに乗り込んだ英首相や、殺人の冤罪を着せられたアメリカ人留学生。疑り深い詐欺の捜査官が陥った行き止まりに、手軽なガス自殺装置がどの家庭にもあった時代を生きた憂鬱症の詩人。それらの事例に寄り道をするうちに、よく知らない他人と出会ったとき、私たちがどうしてしまうのか、それによってなにが起きてしまうのか、というあいまいな問いかけが、すこしずつ明確なものとなっていく。

 

 構成がとてもスリリングで、読んでいること自体がめちゃくちゃ面白い。途中で休憩してもやっぱりその続きのことを考えてしまうような本である。

 

理由2 予想したような内容じゃない

 『トーキング・トゥ・ストレンジャーズ 「よく知らないひと」について私たちが知っておくべきこと』というタイトルと、話題にしているひとたちの層とかを見て、なんとなく、こういうことが書いてあるんだろうな、という想像はつくと思う。

 ……その想像が100%間違っているわけではないのだけれど、でも実際に読んでみると、50ページくらいの段階で、「あ、なんか思ってたのとちょっと違うぞ」という気持ちになると思う。

 

 きわめて繊細なテーマが、それにふさわしい緻密なタッチで、……予想していたより1歩か2歩くらい深く踏み込んでいるのである。文章は平易だけど、書かれている内容は非常に込み入っていて、読むひとごとに違う読みかたをする本になっていると思う。

 そういう本って、(誰かではなく自分が)読んでよかったな~、という気持ちになりますよね。