良かったときを思いだす

 

 ひさびさに弟と話をして、高校1年生のクリスマスの朝のことを思い出した。僕は親元を離れて進学校の寮に住んでいて、その日もいつもどおり0時間目の授業*1に間に合う時間に起きて朝の支度をしていた。

 

 そしたら親の携帯から電話がかかって、とったら末の弟が出た。「お兄ちゃんのところにはプレゼント届いた?」と聞かれた。

 

 去年、親元で一緒に暮らしているときには、僕もサンタクロースからのプレゼントを受け取っていたのだけれど、その年からはもらわないことにしていた。ほしいならあげるよ?というそぶりを母はしていたけれど、謹んで辞退した。物欲がなかったというのもあるし、父親が死んだあとの家の経済状況を、僕なりに多少心配してもいた。

 

 なので弟に「いや~、届かなかった笑」と答えたら、「そう…」といって電話が切れた。そのあと夕方にまた親から電話がかかって来て、とったら、「『お兄ちゃんにはサンタさん来なかったって泣』ってずっと朝泣きそうだったよ笑」と親が笑いながら言った、そのあとおばあちゃんにかわったけどおばあちゃんもしたたか爆笑していた。

 僕は弟のことを、自分はプレゼントもらったはずなのに、ひとのことを気にして心を痛めることのできるいいやつじゃん*2、と思い、そう思ったとき、とても良かったなあ、と思ったのを思い出した。

 

 残業終わりの、コロナ禍のクリスマスイブの街を家に帰りながら、それを皮切りに、昔のいろいろな良かったときのことを思い出した。

 

良かったとき 1

 本好きの友達と駅前で待ち合わせしていて、遅れて着いたらそいつが本を読んでいて、「行くよ」って声かけたら、「ちょっと待って」って言われて、券売機のほうに行くから「俺を置いてどこに行くんだ…?」と不思議に思っていたら、そいつが切符を1枚買って、本の開いたままだったページに挟んで栞にしてから、「ごめん、行こう」と言ったとき、とても良かった。

 

良かったとき 2

 「おもしれー女」っていうセリフが出てくるアニメを友達と見ていたら友達に突然、「俺、会社の飲み会で『つまらない男』って言われたんだけど…」って言われて真逆の存在のやつが画面を挟んでこちらがわにいたの良かった。

 

良かったとき 3

 大学卒業後、大学生向けのインターンに潜り込んで細々と生計を立てていたとき、いろいろな年長のひとにいろいろな場所に連れまわしてもらって、でも僕は面白いこと何もできるわけでもなく、なにか言われるたびにただ「そうっすね!」「俺もまじでそれそう思います」「それ……、まちがいないっすね!」みたいなことを答えていただけで……、ある夜、「なんで俺みたいな浅いやつに良くしてくれるんですか?」と聞いたら、「お前、ロケット団って知ってるか? あいつらいつも、ぜんぜん役にも立たんけどソーナンスずっと連れてるだろ。それといっしょだよ」って言われて、「そうなんすかー……」って言ったとき、その場にある雰囲気、人々、出来事、料理すべてがとても良かった。

*1:九州の進学校には早朝に追加の授業をする風習がある。

*2:ひとというよりは、兄という身近に見える近い未来でサンタさんからプレゼントがもらえなくなることが怖くなった、というエゴなのかもしれないが。