海洋学

 

こんなに身近にあるのに
なにも知らなかったのはなぜだろう
海の中にも川の流れがあること
大陸を持ち上げる冷たい力があること
何万年も生き残る化石のような水塊があること
そして、
圧力の中に沈んで
なおも何かを見つけようとする探求心に
ささげられた淋しい球形

 

わたしは大学の海洋学の集中講義の3日間で
あなたについての生涯で知れるすべてを知り
一晩の蜜月をすごして
(その夜わたしたちはビーチを貸し切り
おたがいを水の中に沈め
何百年も伝わる謎の
エレガントな答えを思いつく
人魚は自分の声が聞こえない
だからたがいに歌いあうのだ)
そして惨めに別れてゆく

 

こんなに身近に感じるものを
私たちは決して知りつくすことができない
平均すれば沈んでいくだけの有機
蒸発による熱の輸送
そして
けたたましい音を立てて沈み
また浮かび上がってくる氷塊

 

体積の何倍もの孤独を隠して
ひとときまじりあっては別れていくわたしたち
永遠のように思えた
けれど退屈ではなかった
集中講義の3日間の
海洋学の思い出