音楽が好きな友達とお茶をしていると音楽の話になる。ふだんはそれぞれ違うジャンル、雰囲気のものをおもに聴いているので、ふたりで話していても「○○好き」「ふうーん」「……」「俺は○○好きだよ」「ふうーん」「……」という繰り返しになるのだけれど、それでもめげずに繰り返していると、ふたりの円が重なる部分を見つけ出すことができる。
そういう、積集合を見つける作業をしているさなかにひさびさに聞き返したのがこの曲だった。ある時期に爆裂にはまって毎日のように繰り返して、その時期のあとも思い出すたびに聞いて、さらにそのあとからいまに至るまでは、たまに思い返しはするんだけどそれまでの時期に刷り込まれた脳内の反響を聞くことで満足してしまって、実際にフィジカルな音として聞くことはなかった曲だった。
好きで好きで何度も聞いた曲は、思い出だけで満足してしまいがちだけど、実際に聞いてみるとじつはかなり良い。というわけで最近は、Easy Lifeの曲を聴いているのでした。
そのなかでもこの「Pockets」はとてもいい曲ですね。雑音交じりのコマーシャルの音声のサンプリングではじまり、喃語のように加工されたこれまた音声、イントロがはじまってからも流れるのは、環境テストに使われるような事務的な録音音声。
バックミュージックはけだるげで居心地がいいんだけど、その居心地の良さは危険でもあるように聞こえる。ボーカルは主張は強くなく、音楽のけだるさに流れているようにも聞こえるけれど、それと同時に一方では外力に負けないような芯があるような気がする。このだるくてきもちのいい曲のなかで、時間は停滞しているのではなく、一つの方向に流れている。その証拠のように、メロディーが進むたびに着実に展開する。途中、「Fuck That」のところで時が止まる。
平坦で抑制的なメロディーに乗せて、それぞれの単語をたたきつけるように歌うサビはこの楽曲の最も美しい場面である。抑圧されることに慣れて自分からなっていく怠惰さが、激しい感情の爆発と紙一重のものであるように思わせられる。ふたつの極端なものを内包する、このぶれる感じが、Easy Lifeのもっとも素晴らしいところではないでしょうか。
ライブ版は、またさっきの解釈をしちゃった音源バージョンと比べるとべつの曲になっているような感じがあるけれど、この華やかで手数が多い感じはこれはこれで良い。
みなさんのプレイリストに入る価値がある曲、Easy Lifeの「Pocket」のお話でした。今日をもちまして、このブログ「タイドプールにとり残されて」は最終回となります。いままでみなさん、ありがとうございました。