プロであることに疲れたら~パク・ミンギュ『三美スーパースターズ 最後のファンクラブ』~

 

いうまでもなく、

僕らは「優勝チームは三美」という結論を下した。

 今やだれもが知るスーパースターとなった韓国の作家、パク・ミンギュさんのデビュー作『三美スーパースターズ 最後のファンクラブ』を読みました。

 

 三美スーパースターズという、韓国プロ野球界に実在した球団を応援した一人の少年が、応援するチームの弱さ(勝率0.125を記録したシーズンがあるらしい)に打ちのめされ、首都の一流大学に進学し、そこでうまく乗り切れなくてちょっと道を踏み外し、それでも大企業に就職するが、競争社会で心を病み、結局リストラされるも、三美スーパースターズの弱い野球を「頑張らない生き方」と読み替えて、自分なりの新しい生活を手に入れる、といったお話。

 

考えてみれば、人生のすべての日は休日だった。

 三美スーパースターズというスポーツチームの短い歴史をてこにして、ある国のひとつの時代を、若い作家が「自分の知っているすべてを書けるだけ書くしかない」といったふうに書いている作品で、もうひたすらに若い。

 ポップカルチャーの参照とか、表記の工夫、脚注の使いかたとか、社会との関わりの埋め込みかた、過剰に書き込む文体の感じとかを見ると、ダグラス・クープランドさんの『ジェネレーションX ――加速された文化のための物語たち』を思い出す。立ち位置的には、おなじことを韓国でやった、と言ってもいいような気がする。

 

 弱いスポーツチームを応援していて、首都の一流大学に進学して、そこで「所属」のもつ力に圧倒されちゃうところとかは、僕自身の人生でもあったことなのでかなり親近感を感じて読んでいた。

 

美しいことだけ考え、美しいものだけを見て育ったとしても結果は知れていただろうあの時代に、僕らはこんな、骨身に染みる恨みや憤怒のなかで自虐を重ねて育っていったのだ。

 基本的には非常に技術のある作家なのだと思うのだけど、扱っているものの練り込みの浅さとかちゃちさを飾りつけてよく見せる、といった方向に小説としての工夫が使われているような感じがあって、文学作品としてはこれはたぶん傑作とまではいかない。ただ、そういうよくいえば技術にたいしてナイーブなところがお話のもつエバーグリーンさを引き出していて、そういうところを求めて読むと非常に印象に残る作品になるのではないでしょうか。

 

 主人公とおなじように地方から一流大に進学していたり、弱いスポーツチームを応援していたり、「プロフェッショナルである」ことをずっと求められる環境で疲弊していたり、そんな境遇に心当たりがあるなら、きっと読んで損はない本でしょう。