Peach Pitの新譜が良い

 

 

 Peach Pitが2020年4月3日にリリースしたアルバム、「You and Your Friends」を聞いて感謝している。音楽に限らず、なにごとかを作っているひとのアウトプットの時間的な推移には共通のパターンがあると思っていて、最初のころは自らの持っているオブセッションを制御できず、作品のなかで自分の才能の特徴的な部分がいびつな形で出ている部分に関してもOKを出しやすいのだけど、そのあとも真面目にアウトプットを続けていると、すこしずつ角が取れて洗練されてくる、と同時にそれがその人の手になる作品であるということをわかりやすく示すような俗悪さが薄れてくる、……というのがあると思うんですよね。

 

 しかしファンとしてみると、多少未熟に特徴が出てくれている状態のほうが「推しやすい」みたいなところがある。

 

 このアルバム、「You and Your Friends」は洗練とその発展途上差のあいだの奇跡的なバランスを実現していて、聞いててため息が漏れた。これはこのバンドのひとつの頂点で、おなじ方向性でこれより明らかに上となるような作品はもう作れないんじゃないか。

 

 何個かの曲がそのレベルに達しているとかですらない。どの曲も軒並み頂点を極めていて、さらにそれぞれの個性というか、コースの打ち分けがある。この曲は憂いを感じるのに軽やかなリズムとサビ前のユニークなためがエレガント。

 

 ライブ映えのする盛り上がりチューンとして作られたようなこの曲では、フレーズのいくつかにはバタ臭さを感じるんだけど、全体的には美しくまとまっていて、部分を切り出したときにはあるはずの非の打ちどころが最後にはどこにもない。

 

 だらっと流すような歌い方が特徴のボーカルなのだけど、この曲ではエレクトロニカ風の曲に合わせてきりっと粒だった歌い方を見せている、……けれどきりっとさせ過ぎて元の持ち味を殺すようなことにはしていない。なんというバランス感覚だ。

 

 もともとメロディーメーカーという長所のあるバンドだったけれど、今作はまじですごくてどの曲を聞いてもメロディーが良い。音楽家の人生には、てきとうに鼻歌を歌えば勝手にキラー旋律が出てくる時期があるらしいのだけど、たぶんそこにいるのでしょう。

 

 今の世界的状態にぴったりのメッセージを含んだこの曲にはアルバムのなかでは1番目ぐらいのポップソングぽさがある。でも「おーパメラ!」のところの後ろでもったいぶったフレーズを弾くギターはバンドサウンドっぽくて素敵ですよ。

 

 

 アルバムの最後ではロックアンセム的な存在感のある曲を置いていて、それが立派に成功している。そんな余計な事しなくても100点満点なアルバムに最後の落としどころを付け加えた。拍手しかない。