余命が5年くらいあれば~「月のひつじ」~

 

偉業に携わってるなんて信じられない

 

 「月のひつじ」という映画を見た。オーストラリア、ニューサウスウェールズ州のパークスというちいさな田舎町、ひつじしかいないような町になぜかある天文台。いろいろな事情から、この天文台が、アポロ11号の月面着陸を世界中に中継する役目を任されることになる。……のだが、所員はいまいち頼りないし、町のひとは舞い上がってばかりで、……さらにはトラブルが! 

 というお話。

 

侮辱されてる気分だ
奴は 優秀なのは米国人だけだと思ってる

 月面着陸の陰でみんな頑張っていた、知られざる偉業を発掘して報告するようなドキュメンタリー作品なのかな、と思って見はじめたけど、違った。いちおう事実にインスピレーションを受けて作られている映画らしいけれど、話には大幅な脚色が加えられている。

 登場人物も架空のキャラクターであり、コメディードラマのようなくせの強いキャラづけをされている。

 

 しかし、シリアスなドキュメンタリーではなく、このコメディードラマが作られたというところに、この題材の懐の深さが現れているような気がする。偉業の中継を待ち望む世界の片隅に、羊しかいないような小さな牧羊の町があって、そこではそれぞれのひとびとがそれぞれのささやかな人生を送っていて、テレビを見つめている。その模様が、さまざまなシチュエーションの面白みとともに、フラットにラブリーに描かれている。特別美しいわけでも、特別意義深いわけでもないが、親しみやすく輝く人生。それがきれいに描かれていて、そのことがこの作品を唯一無二のものにしている。

 もしあなたが何らかの事情でこの世にあと1年くらいしかとどまれないのであれば、もっとべつの、見るべき作品を見たほうがいいと思うが、そうではなく、急いでもいないのなら、つぎの夜に「月のひつじ」を観てみるのは良い選択なのではないか。

 

パークスは現在もNASAの計画に協力中
相変わらず 牧羊地のど真ん中に立っている

 

 物語だけでなく、映像と音楽も素晴らしい。音楽は、電波望遠鏡アポロ11号のほうへその巨体を動かすというとても印象的な場面でながれるこの「Classical Gas」という曲がとても良かった。

 「The Dish」とよばれているその望遠鏡を映したシーンはどのカットも素晴らしいですね。NASA職員と天文台の所長が動くパラボラアンテナの上でお茶をたしなむ場面とか、天文台の所員がパラボラのうえでクリケットをする場面とかとってもいい。