ヴァンパイア・ウィークエンドとエミリー・ディキンスン

 

Every time I see you in the world, you always step to my girl

 

この世界で見かけるたびに、いつもお前は俺の大切なひとに一歩一歩と近づいていく

 

 Vampire WeekendというバンドのStepという曲がとても好きで、死後も思い返して聞けるように生きているうちになるべく聞くようにしている。この曲の歌いだしが、頭に引用した「Every time I see you in the world, you always step to my girl」というフレーズ*1なのだけど、これを見るたびに思い出す詩がある。

 

 エミリー・ディキンスンさんという詩人がいる。エミリー・ディキンスンさんは自分の詩にタイトルをつけなかったので、それぞれの詩は通し番号か最初の一行をタイトル代わりに使って呼ぶのが通例となっている。最近はApple TVで彼女を主人公としたドラマがサブスクされているらしい。

 

 そのエミリー・ディキンスンさんの「Because I could not stop for Death」という詩が思い出すそれである。英語版Wikipediaには単独項目もたっているくらいすごい詩であり、そのページには全文が載っているが、かなり英語が難しいので、もし興味がある方がいれば、訳詩集を手に入れるか、てきとうに検索して日本語訳を探したほうがいいかもしれない。

 

Because I could not stop for Death —
He kindly stopped for me —
The Carriage held but just Ourselves —
And Immortality.

 

わたしが「死」のために立ち止まれなかったから

「死」は私のために優しく立ち止まってくれた

馬車に乗りこんだのは私と「死」

あと、「不滅」だけ

 

We slowly drove — He knew no haste
And I had put away
My labor and my leisure too,
For His Civility —

 

ゆっくりと走った。「死」は急ぐことを知らない

その丁重な扱いに応えようと

私は自分の労働も余暇も

投げうった

 

We passed the School, where Children strove
At Recess — in the Ring —
We passed the Fields of Gazing Grain —
We passed the Setting Sun —

 

通りすがりの学校には子供たちがいて

休み時間、土俵のなかで遊びに励んでいた

こちらを見つめ返してくるような穀物畑を抜け

日没の手前を通りすぎた

 

Or rather — He passed Us —
The Dews drew quivering and Chill —
For only Gossamer, my Gown —
My Tippet — only Tulle —

 

いえむしろ、「死」が私たちを通り過ぎた

夜露が寒さと震えを連れてきて

糸くずだけが私のガウン

肩掛けは、薄いチュール

 

We paused before a House that seemed
A Swelling of the Ground —
The Roof was scarcely visible —
The Cornice — in the Ground —

 

こんもりとした土の山のような家のまえで

私と「死」は一休みをした

ぎりぎり屋根だとわかるくらいの屋根

庇にいたっては、土のなか

 

Since then — 'tis Centuries — and yet
Feels shorter than the Day
I first surmised the Horses' Heads
Were toward Eternity —

 

そのときから数世紀が過ぎて、けど

あの一日より短く感じられた

乗りこんだ馬車、馬は「永遠」のほうへ

向かっていくのだと思ったあの日から

 Stepの最初のフレーズで歌われている「You」は、ここでいう「死」のようなものなんじゃないかとなぜか思うのでした。

*1:このフレーズ(というかこの曲全体)は、Souls of MischiefのStep to my girlという曲をさらに元ネタとしている。