苦しすぎる~角田光代『愛がなんだ』~

 

 恋愛というのは人間の生においては重要な位置を占めている出来事らしく、小説を開けばそこではなんらかの形で恋愛が取り扱われていることが多い。なので僕も知らず知らずのうちに恋愛には詳しくなってきているのだが、恋愛をメインテーマに据えた小説というのはあまり読んでこなかった。むかし恋愛小説にはまったことがあったけど、一過性のブームだった。

 

愛がなんだ (角川文庫)

愛がなんだ (角川文庫)

 

 というわけでひさびさに恋愛小説を読みました。友人は「読んでるとしんどくなるよ」と言っていたので、さてどんなものか、と思って読みはじめたのだけどたしかにしんどい。

 

 主人公がひとつ年下の男性を好きになって、彼に対して尽くすタイプの恋愛をする。その痛々しさをけっこう残酷に書いている。ところどころコミカルにも見えるので、ギャグで書いてるのかなって一瞬思わなくもないんだけども、実際これはある話なんだろうとなとも思う。

 

 僕はあまり恋愛体質ではないので肌感としてはなかなか理解できないものの、それぞれの印象的なシーンが含んでいる深淵を感じることはできた。ホームパーティー会場ですみれさんにかいがいしく接するマモちゃんを、やけに分析的でストレートな視線を向ける主人公だったり、すみれさんとマモちゃんと自分の関係がべつの形であったらというところを望むあたりとかはすごい。

 

「やっぱ多めにビール買っときゃよかった」

風呂から出てきて、冷蔵庫を開けマモちゃんはつぶやく。

「え、じゃあ私買ってくるよ」

「いいって、そんなの。買ってきてほしくて言ったんじゃなくて、今のただの独り言」

 この会話のあと結局主人公はビールを買いに行くし、いま無職でひまだから雑用とかつかいっぱしりにしてくれてもいいんだよ、というようなことをマモちゃんに言う。翌朝、マモちゃんの機嫌は悪くなって、朝早くから主人公を追い出す。コミュニケーションがまったくできておらず、せつない。

 

 物語としての構造が設定されていないため、どこで終わってもいいし、望むかぎり書き続けていられるような作品ではあるが、最終的にはマモちゃんとすみれさんと主人公の三角関係が発展的に解消したところを一応の着地点として選択している。ただ、葉子という主人公の友人がいて、それもかなり興味深いキャラクターだったので、つぎの世界ではそっちを絡めた決着も見たかったな、とも思った。