かえるのうた

 

きみはいつもぼくに
この話ばっかりだねという
ぼくはなんどでもきみに
この話を話すよ
あれはぼくときみがまだ友達じゃなかったころ
出会ってもいなかったころ
ぼくにはかえるの友達がいた
そいつは言葉を話すかえるで
ある雨の日ぼくに話しかけてきた
「げろげろ
わたくしはかえる
わたくしとあなたは友達
あなたの言うことならどんなことでも
わたくしは聞きましょう
そのかわり
わたくしの言うことをたったひとつだけ
あなたにも聞いてほしいのです」
そいつはぼくの初めての友達になった
きみはびっくりはしないだろうけど
ぼくはそれまでまったく友達がいなかった
かえるはぼくの言うことならなんでも聞いた
ざあざあ降る雨のなか
かえるにいろんなことをさせて遊んだ
ジャンプとか、ドッキリとか、万引きとかいろいろ
だけどかえるはしょせんはかえるで
大したことはできなかった
できないなりに命令をこなそうと
体じゅうを堅くして頑張るかえるを見て
きみなら驚きはしないだろう?
ぼくもいじらしい気持ちになって
結局、自分で出した命令を
自分で手助けすることになってしまった
ぼくがすっかりそいつのやることを奪ってしまうと
かえるは情けなさそうな
悲しそうな顔をして
それでも、ぼくに向かって笑って
友達でよかったと言った
そのあと
何か月かが経って
雨の季節が終わって
ぼくはきみと出会った
きみはなぜだかぼくのことを好いてくれて
ぼくもきみとあそぶ時間を楽しいと思うようになった
そうやっているうちに
気づいたらいつのまにか
かえるはいなくなった

そのあとのことはきみもよく知っているだろう
きみを通じて
だけどきみほどは仲よくはない友達が
ぼくにもすこしずつできて
だんだんたくさんになった
だけど思うんだ
なんどでも不思議に思う
あのかえるはぼくの言うことを聞いてくれたけど
あのかえるがぼくに聞いてほしかった
たったひとつのことってなんなんだろうって
考えるたびになんとか答えを出してみるけれど
考えるたびにちがう答えになるんだ
きみはいつもぼくに
この話ばっかりだねという
ぼくはなんどでもきみに
この答えを話すよ