スポーツを覚えているか?(Remember Sports)

 

 先日観た映画、「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」に以下のような会話があった。バンドを組んだ主人公たち3人が小道を歩いている。キャシーがジェームズに「バンド名はどうするの?」と話しかける。ジェームズは「バンド名の話はやめてくれ」と言う。彼によると、バンド名を自分で考えるのはバカだけなのだという。「じゃあ、ビートルズもバカなの?」とイブが口をはさむ。「そのことに疑問を持たなかったのなら、バカだね」とジェームズは言い捨てる。

 

 バンドを組んだ経験はないが、たしかにバンドの名前を考えるのはちょっと面倒くさいというか、気恥ずかしいというか、極論何でもいいはずなのにそれにしてはセンスを問われてしまってなかなか動けなくなるというか、いろいろな要素が絡まりあってちょっとアンニュイなタスクなのはなんとなくわかる気がする。

 

 アメリカ、ペンシルヴァニア州フィラデルフィアで大学の同級生によって結成されたバンド、Remember Sportsも(もしバンドが民主主義的な手続きを採用していたのであれば)すくなくともメンバーの過半数がジェームズとおなじ意見だったのだろう。当時のバンドの名前はあまりにも禁欲的な「Sports」だった。

 

 このThe Washing Machineという曲を初めて聞いたのはもう何年も前のことで、聞いた瞬間からずっと好きだった。良くも悪くも若く、若いことを恥じる気配もないガチャガチャとした音楽をやっていて、しかもなぜかそれが、天上の世界を目指して演奏しているような気高さと清々しさを備えている。とっても好きになって、バンドのほかの音源を探そうとしたのだけど、Sportsと検索してもスポーツの動画が出てくるだけであった。そして、Sports bandと検索するとおなじ名前だがあきらかにべつのバンドがヒットするのである。

 

 そのままこの一曲だけを聞き続けて数年が経ち、今回やっと英語圏インターネットからバンドの消息をあぶりだすことに成功した。大学生だった彼らは、「Sports」と適当に名付けたこのバンドがここまで多くの人に愛されるものになるものだとは考えておらず、適当につけてしまった名前も反省していたらしい。いろいろ紆余曲折のあと、メンバーを入れ替えて、またバンドとして再出発するにあたって再び名前をつけなおした。あの頃自分たちの音楽を聴いてくれたファンに向かって、問いかけるように。Remember Sports?「スポーツを覚えている?」と。これはいま勝手に僕が考えたストーリーなので真に受けないでください。

 

 Remember Sportsは今も元気に活動していて、来月には新譜(といっても2枚目のアルバムのリマスター版のようだが)がでるらしい。めちゃくちゃいいバンドだと思うのでよかったら聞いてみてね。