存在しないTVシリーズ全13話を頭に描きながら~「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」~

 

 「ゴッド・ヘルプ・ザ・ガール」という映画を見た。2014年公開の映画。

 

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 脚本・監督など制作の総指揮はスチュアート・マードックさん。だれかというと、映画関係の人ではなく、スコットランドのバンド、ベル・アンド・セバスチャンのフロントメンバーである。ベル・アンド・セバスチャンというのは、激しさや極端さを排し、ブラックミュージック的なニュアンスからも離れた、けれどもその範囲を守りながら個性的で、とても良いポップミュージックを出している、というイメージのあるまあまあ有名なバンドである。

 

 主人公は拒食症で精神病院に入院しているメンヘラのイブ。イブは音楽が好きで、ある日ラジオで流れていたちょっと激しめの音楽をやるバンドの出演するライブに、病院を抜け出して出かけ、そこでやや優しめの音楽をやっているジェームズと出会う。それからいろいろあって、ふたりはジェームズの教え子のキャシーとバンドを組むことになり……。

 

 この映画はミュージカルの形式で作られている。イブが歌いながら病院を抜け出す場面で始まるし、そのあとも物語のいたるところで曲が歌われる。音楽というのはもちろん、ベル・アンド・セバスチャンがやっているようなかどのとれたおだやかなポップミュージック。

 

 最初の30分、僕はこの映画を駄作だと思いながら見ていた。やっぱり、メンヘラと音楽オタク少年の、ボーイ・ミーツ・ガールな非現実的なサクセスストーリーを、甘いポップミュージックをフィーチャーする形でやられても、茶番なだけだと思ったのである。

 

 最後まで見て、たしかに茶番だという感覚は間違いではなかったと思う。けれど、この映画にはなんというか、茶番を茶番で良しとさせるようなすごいセンス・オブ・ワンダーがある。最後にはびっくりするくらい泣いていたし、あ、なんか2時間かけて面白いもの、――この映画だけで面白いとはいえないまでも、面白い構想の断片を見たなって気分になった。

 

 これが僕にとってかなり受け入れられたひとつの理由は、なんとなくアニメっぽい雰囲気があるからだと思う。映画というよりは、その後ろに13話のTVシリーズを抱えている総集編として見れる感じがある。

 そのようにするといろいろなシーンがクリアに鮮やかに見えてくる。キャプテンがキャシーを呼びに行く謎の舞踏会。メンバー集めのチラシと謎の制服を着たごみ拾いのお姉さん。結局は謎のままの、ジェームズの空白の一日。……そういえばそれはそれぞれアニメで一話使って描かれたお話だった。映像が頭に蘇ってくる。

 

 各キャラもアニメっぽいコミカルさがあってよかった。さらに川を下る場面ではアイリスアウトが使われていた。アイリスアウト*1なんて実写の映画ではじめて見た。キャシーも素晴らしくて、世間知らずで惚れっぽい変な子みたいなキャラ付けがされているんだけど、ビラを配るシーンで秒で男の子についていっていたのをジェームズが止めるシーンなどは良かった。

 

 オチにもびっくりした。そういうふうにするんだったらいろいろな説明が足りないのでは……、とも冷静になれば思うんだけど、そのシーンを見るころにはあたまのなかに架空のTVシリーズが描けていたので問題はなかった。音楽もよかったし、いい映画だった。

*1:画面が隅っこのほうから暗転していって、最後に焦点の場面が丸く切り抜かれて終わるカットの切り方。ドラえもんのオチなどでよく使われる。