やっていくしかない(Noah And The Whale - L.I.F.E.G.O.E.S.O.N.)

 

 

 今日は本当はどこかに散歩に行く予定だったのだけど、いまいち気が乗らなくて、家でずっと音楽を聴いていた。Noah And The Whaleというイングランド、トゥイッケナムのフォークロックバンドがあって、その、やや大仰にタイトルが書かれた曲が気になって歌詞を調べてみた。

 以下はその数時間にわたる苦闘の、ひとまずのところの成果である。英語が特別得意なわけではないので、おおきく間違いを晒しているかもしれないが、間違いが間違いだとはわかる程度に大晒ししているつもりなので、そこに免じて勘弁してほしい。

 

 「Life goes on」というのは、文字通りには「人生は続く」という意味だが、単に事実を述べているのではなく、「いろいろしんどいこともあるけど、明日はそれでもやってくるんだし、やっていくしかない」というようなニュアンスがある。

 

[verse 1]

Lisa likes brandy and the way it hits her lips
She's a rock 'n' roll survivor with pendulum hips
She's got deep brown eyes that've seen it all

 

リサはブランデーが唇に触れるときのあの感じが好きで

お尻を振り子にしてロックンロールの時代を生きてきた

すべてを見届けた深いブラウンの瞳

 

Working at a nightclub that was called The Avenue
The bar men used to call her "Little Lisa, Looney Tunes"
She went down on almost anyone

 

「ザ・アヴェニュー」と呼ばれているナイトクラブで働いていて

そこでは「ルーニー・チューンズのリサちゃん」って呼ばれてる

誰の前でだって、彼女はひざまずいた

 verse1と2の部分では、順調とは言えない人生を送ってきた2人の人物について語られる。

 

 1番で描かれるのはナイトクラブのリサ。「a rock 'n' roll survivor」というのはこういうようなニュアンスであっているのだろうか。「see it all」で「見れるものはすべて見届けた」という意味らしい。

 

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 「ルーニー・チューンズ」というのは、ワーナーブラザーズのこういうアニメシリーズ。調べてみたところ、このシリーズに「Little Lisa」という特定のキャラクターはいないので、まあアニメキャラみたいにかわいい子だよね、と軽んじられながらももてはやされている、そういう店での立ち位置を表した描写なのだと思われる。

 「前でひざまずく」と訳したが、「go down on」というのは調べてみたところ、身もふたもなく、オーラルセックスをするという意味であった。*1

 

[verse 1-2]

From the hard time living 'til the Chelsea days
From when her hair was sweet blonde 'til the day it turned gray
She said,

 

生活に苦しんだ時代からチェルシーでの日々まで

甘いブロンドだった髪が、グレーに変わった日まで

彼女は言った

[chorus]

"L.I.F.E.G.O.E.S.O.N.
You've got more than money and sense, my friend
You've got heart and you're going your own way"

 

「やっていくしかないよ

あなたはお金とかセンス以上のものを持ってるでしょ?

ハートがあって、自分の道を進んでいる」

 

"L.I.F.E.G.O.E.S.O.N.
What you don't have now will come back again
You've got heart and you're going your own way"

 

「やっていくしかないよ

なくしてしまったものも、いつかまた戻ってくる

あなたにはハートがあって、自分の道を進んでいる」

 

 1番の後半部分からサビにかけて、曲の主人公(後で出てくる)が彼女から慰めを受ける。でもその慰めはリサが自分に向けて語っているものでもあるのだろうか。サビがそのまま彼女の発話内容になっている。

 

 「Chelsea days」という慣用句はないようなので、チェルシーというのはそのままイングランドの地名を指すと思われる。

 そっちのほうが日本語として座りがいいので、「What you don't have now」を「なくしてしまったもの」と書いたが、このdon't have nowは「昔は持っていた」くらいまで含意しているように響くのかしら……、わかりません。

 

[verse 2-1]

Some people wear their history like a map on their face
And Joey was an artist just living out of case
But his best work was his letters home

 

自分の歴史を地図みたいに顔に浮かび上がらせている人たちがいて

ジョーイはアーティストだったけど、ただの放浪人で

最高傑作はといえば家族へ送った手紙だった

 

Extended works of fiction about imaginary success
The chorus girls in neon were his closest things to friends
But to a writer, the truth is no big deal

架空のサクセスストーリーが積み重なっていく

ネオンを浴びるコーラスガール以上に親しい友人はいなかった

けど作家にとって、真実なんて大したことじゃない

  2番の主人公は、たいしたものが書けない作家。「people wear their history like a map on their face」というのは、その辿ってきた苦労の歴史が顔を見ただけでなんとなく想像できてしまうような類の人という意味だろう。たしかにそういう人はいるし、僕もそうなるかもしれない。

 2番の主人公のジョーイもそんな人物。「living out of case」というのは今回でいちばん難しく、これだけで何時間も調べまわったがまだいまいち確信が持てない。「live out of a suitcase」でスーツケースを抱えて暮らす(=特定の住所を持たず、いろいろなところに寝泊まりして暮らす、知人の家を渡り歩く)みたいな意味で、それを縮めて言った表現である、というのが今の段階での最有力解釈である。

 

 家族へ送った手紙が最高傑作、というのはとても面白くて、この歌詞のなかでも一番のパンチラインだと思う。「Extended works」というのは、その、家族へ書き送っている自分の架空のサクセスストーリーが、手紙が積み重なるごとに拡張され、塗り重ねられていく、というようなイメージだと思われる。

 

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 コーラスガールというのはこんな感じらしい。ショーで何度も衣装を変えながら歌う脇役の合唱団、という感じだけど、この歌詞の中で出てくるコーラスガールのショーというのは、たぶんそこまで高尚なショーではないのでしょう。

 彼に友達なんてものはいないけど、それに一番近いのはそんなコーラスガールである、という辛辣ながら滑稽な描写だ

 

[verse 2-2]

From the hard time living to the sleepless nights
And the black and blue body from the weekend fights
He'd say,

生活に苦しんだ時代から眠れない夜

そして、毎週末のけんかで痣だらけになった身体

彼は言った

 「the hard time living」という表現もいまいちよくわかっていない。調べてみたら、そんなフレーズが普通にあるような感じではなく、hard timeを他動詞のlivingで後ろから修飾している感じでもない。たぶんその場合はlivedになるはず。

 hard livingで「苦しい生活」という言いかたはあるようで、それにtimeをつけるにあたって、hard living timeとなるのを嫌って(ふつうはthe time of hard livingとかになるような気がするが)間に入れたのか。それともFrom (his) living the hard timeというのが本来でそれを倒置したのか…。ここは本当にわからないので、英語に詳しい人がもし読んでいたら教えてくれると嬉しいです。

 と書いたあと英語がうまい友人と会う機会があったので聞いてみたら、「have a hard time ~ing」で「~するのに苦労する」という言いかたがあるらしく、それを念頭に置いているのでは?という指摘をもらった。たしかに、これが一番納得いく説明のような気がする。ありがとうございます。

 

 また、ここで突然出てくる「毎週末のファイティング」というのもまったく文脈が取れない。本当に突然出てきたのか、それともなにか共通理解があるのか。

 ジョーイはファイト・クラブにでも通っているのだろうか?

 

[bridge]

On my last night on Earth, I won't look to the sky
Just breathe in the air and blink in the light

 

地上で過ごす最後の夜、空を見上げることはない

ただ空気を吸い込んで、光に目を細めるだけ


On my last night on Earth, I'll pay a high price
to have no regrets and be done with my life

 

地上で過ごす最後の夜、僕は大枚をはたくつもりだ

後悔せず人生を終えるために

  このあと「やっていくしかない」のコーラスがあり、曲はCメロ部分に移る。とつぜん、僕(I)が登場し、自分が死ぬときのことを語る。人生のサバイバーふたりが、「やっていくしかない。だってあなたにはあなたの道があるんだから」と「僕」を励ましたのにもかかわらず、(おそらく)若い「僕」はかっこつけて人生を片付けるときのことを考えたりしている。

 強い皮肉のように見えるけれど、でもそれを含めて人生というのはそういうもので、ただ進んでいくのだし、やっていくしかないのかもしれない。そして、やっていくしかない人生にも、いつかは終わりが来るわけで、そのとき、「やっていくしかない、人生は続いていくのさ」という気持ちで続けてきたひとはなにを思うのか。ひょっとしたら、後悔したりしないのか。

 

 「僕」の若いブリッジのあとも、"L.I.F.E.G.O.E.S.O.N."と語りかけるコーラスは4度繰り返される。そのあと曲は、30秒ほどのリフレインのあと、ぱたりと終わる。

*1:女性に対して使う場合には、唇から初めて、首、胸、おなか、…、というふうに体の上のほうから順にキスして最後には性器にいたる、というような情熱的な前戯のことを指すこともあるらしい。