はじめてバーに立った日の話

 
 その前にまずは「喫茶ノン」の話をしなければいけないだろう。南千住にあるこのような喫茶店である。午後のすこし遅めの時間、お腹が空いていた。
 

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 中はこんな感じだった。常連と思われるマダムが何名かで組になっておしゃべりしていた。やってきた僕を見て、「あら、とんでもないところに迷い込んだわね、ボウヤ」というような視線を送ってきた。

 

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 カレーを頼むとお茶請けが出てきた。店内にはシャンデリアとカラオケがあって、マダムたちが通うお昼のスナックのような遊び場だった。歌が始まると、僕も礼儀上右に倣って手拍子や拍手をしたので、なかなかカレーが食べづらかった。

 

 カラオケは精密採点を導入していて、あるマダムが歌い終わって88.488点を出したとき、店の中がいきなり沸き上がった。そんな沸き上がるような点数じゃないだろと心のなかで突っ込んだが、そのあと次のような会話が聞こえてきた。「あらー、○○さん惜しかったわね!」「あと一か所だったのに」「え、ぞろ目だったらなんだったかしら?」「88.888だったらラーメン二杯よ、二杯」五ケタのぞろ目を出したらラーメンをおごるという賭けをしているらしかった。

 

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 そのあと僕もマイクを渡されて1曲だけ歌うことになった。僕はもともと歌うのが上手でも得意でもなく、アルコールが入っていない状態で歌唱するのは10年ぶりくらいである。でも頑張って歌ったおかげでマダムたちとも仲良くなり、職業を聞かれて、「無職なんです」と白状すると、「じゃあ私の息子が駅前でラーメン屋さんやってるから、ちょっと働けるか聞いてみるわ」と言われて電話番号を交換した。友人の話によると、面倒見がいいことで知れ渡った人格者のマダムらしい。

 

 そのあとは店主のマダムに突然人相を占われた。僕の顔の右側にあるほくろを指さして、「そこにほくろの意味わかる?」「わかりません」「これはね、人気者って意味なの。ほら、あそこにいる女の人(マダム)いるでしょ? あの人もそこにほくろがあって、……とっても人望があるのよ」

 

 科学的根拠がないということを除くとうれしい言葉だった。だってこれから僕はバーで店員をやるのである。人気者であることに越したことはないんじゃないか。

 

 そのおかげか、人生で初めて立ったバーの夜にはたくさんのお客さんが来てくれた。バーの常連のかたからはじめての方までいたのは素直にうれしかったし、それ以上に、このブログを見ていて(おそらく)それで来てくれたかたがけっこういて、冥利に尽きました。

 

 つぎもたくさん人が来るといいな。