新しい画期的な居眠りのしかた

 

 作ることがけっこう好きだ。意外と僕には職人気質がある。ただし、手先はあまり器用じゃないし、実際に手を動かすことを面倒くさがるというだめな性格をしていることもあって、物体を作るのはあまり上手ではない。美術や技術の成績はひどいものだったし、そもそもさぼり倒していて完成品を提出できたことがほぼなかった。

 

 かわりに、頭のなかだけで作れるものを作るのはけっこう得意だという自負がある。ドライブ中にできるようなちょっとしたゲームとか、小話とか。自信作もけっこうある。

 

 そのなかでもいちばんの自信作が、僕が高校のころに考案した、新しい居眠りのしかただ。これは画期的な方法で、いままでの居眠りにあった難点をすべて解決することに成功している。

 

 これまで皆さんはどのように居眠りをしてきただろうか。おそらく腕を机の上で広めに組み、その上に頭を伏せるという方法をとってきたのではないか。

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 こんなふうに。……周知のとおり、この方法には欠陥がある。自分の呼吸した息が水色の部分で凝結して濡れるのである。机が濡れてしまうのはシンプルに見ていて気持ちのいいものではないし、よだれを垂らしたのではないかと誤解されてしまうこともある。それに寝ている当人にとっても蒸れて気持ちが悪い。

 

 それを避けるために首を横にひねって横向きに寝ているひとも多いが、首をひねることで七個しかない首の骨に負担がかかってしまうし、なによりクラスメイトに寝顔を見られてしまう。

 

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 僕が考えた新しい眠りかたがこれだ。

 

 

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 パンチをガードするボクサーのように肘をすぼめてこぶしを構える。その両腕の間にできた逆ハの字型のスペースに顔をはめ込む。肘を机につき、両腕の内側でほっぺたをはさむようにして頭を固定する。

 

 この新しい眠りかたをすれば、顔と机のあいだに空間があるので蒸れることがない。むしろ風がすいすい通りぬけていって涼しい。そのうえ、顔はうつむいているのでまわりのひとに寝顔を見られる心配もない。「肘が痛くなるのでは?」と反論する方もいるかもしれないが、それは机上の空論だとはっきり申し上げておく。肘は人体でもっとも硬い部位であり、人体でもっとも重い部位だと言われている頭を支えるのにもっとも適している。僕は高校3年間、この寝方をして肘を痛めたことは一度もなかった。

 

 また、腕の内側という、人体のなかでもかなりもちもちとした感触のする、そしてむだ毛の少ない部位が頬にあたるので、とても気持ちよく快眠することができる。どの関節も自然な曲がりかたをしていて、無理な力もかかっていないので、起きたときにどこかが痛むということもない。

 

 この画期的な新しい居眠りのしかたを、周囲の友達にも進めてみたのだけれど、実際にやる人はひとりもいなかった。僕はたった一人で、肘を支点にして眠り続けた。3年間、たったひとりで。

 

 人は変化を嫌う生き物、……わかってはいたが、自分の発明が受け入れられないのはすこし寂しかった。