4つの4

 4つの4、という算数パズルがある。ルールは簡単で、4を4つと+、-、×、÷、()などの記号を使っていろいろな数字を作っていく、というものである。たとえば、5を作ってみるとこうなる。

 

  5 = ( 4 × 4 + 4 ) ÷ 4

  5、程度の弱い数字であれば数秒考えるだけで作ることができる。けれども、この調子で0から順にすべての数を作っていこうと考えると、これがなかなか絶妙な難易度のパズルになる。僕は中学生のころにこのパズルにはまり、膨大な時間をつぎ込んだため、最終的には0~400くらいまでの数をたくさん作ることができた。(かわりに、友達はひとりもできなかった)おそらく、当時、県で最も4を計算した中学生だったと思う。

 

 おなじような発想で、3つの3あるいは5つの5というパズルでも大差ないのでは? と思われる方もいるかもしれないが、4と真剣にかかわってきた(かわりに、友達はいなかった)僕のようなひとからしてみれば、それは笑える冗談だというほかない。4にはほかの数字にはない特別な力がある。4にフルコミットしたことがない世の中の大半の人が知らないであろう、4のすばらしさを紹介してみたいと思う。

 

  10=4+4+4-\sqrt {4}

 10はこのようにして作ることができる。ここで使われているルート4というのが4のシンプルにして最大の強みだと言える(一応、10はルートなしでも作れるが)。ほかの数であればルートをかけても全く使えない数になるだけだけど、4の場合は2になる。事実上「4つの4」というパズルを「4つの4と2」の状態にまで追いこめるということだ。

 

 さて、さりげなくルートを使ったが、ではどんな記号がこのパズルで使うことを許されているのか? 流派によって違いはあるが、中学校のころの僕は「この世に存在する記号はすべて使ってOK」という無差別級のコンペティションに参戦していた。つまり、算数についての知識が増えていくほどに、4で作れる数も増えていく。僕は4で作れる数字を増やすために数学のむずかしい本を買ってけっこう勉強した。

 

 そうやって知った新しい記号が僕の大きな力になった。まずは階乗。4!=24は奇跡と言ってもよくて、ほかの数を階乗したところで大きすぎたり小さすぎたりであまり役に立つ数にはならないのが、4だけはちょうど使いやすい数に収まってくれる。

 

 そして、4を使って作れる小数はさらにその上を行く価値を持っている。4の手前に小数点をつけた数、「.4」は、= 2/5 であり、(本当は0を使って、0.4と書くべきだろうけど、4つの4の世界では位取りの0は無視してもよいというローカルルールがあった)この時点でそこそこ使える。たとえば、

 

 5= \dfrac {\sqrt {4}}{.4}

  このようにすると、たった4ふたつで5を作ることができる。分子からルートを外すと10もできる。

 

 さらに最高なのが循環小数。.4のうえに点をつけることで、小数点以下4が無限に続いている循環小数を表すことができる。

 

  .\dot{4} = 0.44444... = \dfrac{4}{9}

 なので、

 

   9 = \dfrac {4}{.\dot{4}}

 このようにたった4ふたつで9を作ることができる! しかしそれだけではなく、さらにこの数を平方すると……。

 

  \dfrac{2}{3} = \sqrt{.\dot{4}}

 びっくりするくらい強力な分数を4ひとつで作ることができる。実際この「ルート+小数点+循環小数マーク」は4の最強装備と言ってもよく、これで任意の整数を1.5倍したり、0.66...倍することができる。これは、偶数と3の倍数からさらにいろいろな数を生み出すことができるということである。そのうえ偶数と3の倍数はそれぞれ自然数とおなじ個数あるので相手が尽きるということもない。

 

  3 = \dfrac{\sqrt{4}}{\sqrt{.\dot{4}}}

  6 = \dfrac{4}{\sqrt{.\dot{4}}}

 4ふたつで3と6を作ることができる。このように、4たったふたつでひと桁の数は(7を除けば)すべて作ることができる。

 

 結果、このパズルにおける基本的なゲームプランは以下のようになる。まず最初のふたつの4、つまり第一クォーターと第二クォーターでとりあえずラフに大きな数を作る(4×4=16、4!×4=96、4^4=256など)。それから、第三Qと第四Qでちいさな数を作ってたし引きし、微調整する。これで大きな数とその前後の数を根こそぎ作ることができる。作れなかったものだけ、頑張って工夫でどうにかする。

 

 たとえば、この戦法によって、99はこのようにして作ることができる。

 

  99 = 4! × 4 + \dfrac{\sqrt{4}}{\sqrt{.\dot{4}}}

 

 よく憶えていないしそのときの記録ノートも手元にはないが、昔の僕はこの戦略で400くらいまでの数をだいたいつくりあげた。正攻法が行き詰まると、お小遣いで関数電卓を買い、作った数をタンジェントに突っこんでガウス記号と絶対値で挟んで無理やり役に立ちそうな自然数を得たりしていた。現代風に言えばタンジェントガチャである(理論上はすべての整数を排出する可能性がある)。ただ、ガウス記号や絶対値記号は壊れ性能すぎて、使っているとずるをしているみたいな後ろめたい気持ちになる。

 

  1 = |[-\sqrt{.\dot{4}}]|

 チート武器のフル装備によって4ひとつで1を実現しているときの4の様子がこちら。罪悪感はあれど、楽しそうな様子が伝わってくる。これが4の、すべてのリミッターを解き放った最後の姿である。さらに双曲線関数を使えば、4ひとつで3も可能である。

 

  3 = [sinh(\sqrt{4})]

 

 ちなみに、このパズルには一般解がある。つまり、4を4つといくつかの種類の記号を使えば、どんな整数も作ることができる。当時の僕でも、対数を使えばルートを0.5に変換できるため、ルートの数を調整することでどんな整数でも作れるような式ができるかもしれない、……というくらいの予想はしていたが、自力で一般解を見つけることはできなかった。

 

 ある日、インターネット検索で一般解を知り(wikipediaなどに載っている)、僕は4を4つ使って数字を作るのをやめた。失われた熱意が復活することは二度となかった。

 

 かわりに、友達ができた。