選手は同じだが、監督が違う~20/21プレミアリーグ第29節 トッテナムvsサウサンプトン~

 

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 プレミアリーグ史上最年少でゲームの指揮を執ったわずか29歳の監督*1は、そのおなじ試合でプレミアリーグ史上最年少の勝利を手に入れた。

 

 スクランブルの監督就任だったこともあり、その監督――ライアン・メイソン自身のもつビジョンだったり、思想がピッチ上で表現されたわけではなかった。起用された選手にも、陣形にも大きな変化はなかったし、選手たちも、披露したパフォーマンスでいえば先週とそんなに変わったわけではないと思う。

 

 ただ、結果は変わった。スパーズはプレミアリーグでは約1か月ぶりの勝ち点を手にして、一試合消化が多いとはいえ、週末に直接対決を迎える4位チェルシーと5位ウエストハムへの勝ち点差を1ゲーム差以下に縮めた。

 選手たちは相手の動きに対応しつつシンプルにプレーした。前半にはサウサンプトンの守備をはずすビルドアップの手順を試合中に何度も考案し、後半には相手ボックス内に効果的に人数をかけることで逆転のための2点を生み出した。

 

 ハイライト観ました? VARで取り消しになってしまったソンのゴールは美しかったですね。①「ライン間でパスを受けたロチェルソが、綺麗な身のこなしでパスコースを作る」(ハイライトにはパスしか映っていないが)→②「相手陣の急所にフリーランしていたレギロンがパスを受け」→③「ルーカス・モウラがゴールに向かって移動して相手DFを引きつけ、」→④「その背後に隠れたソンが、精密かつすげー威力のシュートを突き刺す」

 

 29歳の監督――ライアン・メイソンは試合後のインタビューで「言葉にできないほど誇らしい」と語った。順位表上の位置はいまだに厳しく、週末に控えたカラバオカップ決勝に対してポジティブな示唆が得られるようなゲームでもなかったが、それはそれとして、この若い新指揮官の勝利を、世界中のスパーズファンは称えたと思う。

 

 そして、勝負強さで知られた彼の前任者がこのチームでその神通力を発揮できず、リードを奪ってから勝ちきれない試合が続いたときに、報道陣へ言った言葉――「監督は同じだが、選手が違う(だから、このふがいない結果なのだ)」を思い出したはずだ。

 

 同時に、いまのこの、……厳しいシチュエーションには変わりないけれど、霧が晴れたように結果が出たという、手放しで喜べもしないけどかといって悲観を保ち続けることもできない、座りの悪い状況を説明する言葉を手に入れただろう。選手は同じだが、監督が違う。

 

 ――それ以上でもそれ以下でもない。このまま、カラバオカップの決勝に臨む。

*1:トッテナム・ホットスパー出身の元プレイヤーで、頭蓋骨骨折の怪我により若くして選手としては引退した。