ふだん、なにもない日は外に出ない(なにもしなくていい時になにかをするのはもったいないので)のだが、今日はちょっと、なんとなく、「どっかに出てもいいな」という気分になった。
お出かけはコスパが悪く、家を出た時点でサンクコストが生じ、期待値はマイナスで、繰り返しになるが時がもったいないということは承知だが、それでも、今日に限っては出かけて損しても「まあいいかな」「それも社会貢献だ」という気分になっていたのである。
いちばん最初に思いついた友人に連絡したら、すこしして返信が来た。いまちょうど部屋の内見をしていて、僕の家からかなり近いところにいるという。ただ、車で来ていたのでそのままではお酒は飲めない。……というシチュエーションであった。
彼「でもお酒は飲みたいよね」
僕「その通りだ」
彼「策がある」
僕「ほう」
彼「合流したら話すよ」
というようなやり取りを経て、合流したのが19時ごろだった。「策」というのは、もう今日からその部屋に住み始めるので車はおいててOKってこと? みたいな小ボケを用意して合流したら、「いや~、なんか押し切られて契約書にサインしちゃったわ。引越し先決まった」と言われてびっくりした。
さすがに今夜からではないが、来週には引っ越すという。僕はちゃんと不動産屋さんと話して部屋を借りるということをしたことがないので、そんなカジュアルに決めてしまえるものなんだ…、とただ感心していた。
結局そのまま彼の車にのって、彼の家がある日野市まで行き、そのあと飲みに行こうということになる。てきとうにしゃべっていたのだが、一区切りするごとに、話題は先ほど契約した部屋のところに戻ってくる。
彼「本当に契約しちゃったけど、これで良かったのかな……」
彼「条件的にはこれでいいんだけど。でも、もうちょい考えたほうが良かった?」
彼「事故物件だったらどうしよう」
彼「いや、事故物件にしては7万(家賃)は高いぜ」
彼「え? ちょっと待って、不安なってきた。ちょっとお前、あれで調べてくれない? いま封筒出すからさ、事故物件じゃないかどうかあれで調べてくれない?」
「大島てる」のこと? ……べつにいいけどなにをそんなにおびえてるの。契約したなら腹くくったほうがよくない? という思いが僕のなかにはあったのであんまり真面目には調べす、「事故物件じゃなかったよ」と適当に答えておいたのだけど、それでは彼の心配はぬぐえなかったようだ。
車を無事彼のアパートに置き、そこから最寄りの繁華街である立川を目指して歩いていると、しばらくして会話は途絶え、彼はスマートフォンにずっと目を落としていた。
彼「やばいやばいやばい、やったかもしれん」
僕「ほんとに?」
彼「『孤独死』、しかも2件起きてる、……え、待ってめっちゃ最近じゃん!」
スマートフォンの画面を見せてもらったら、たしかにそこには炎のエフェクトと、説明欄に「孤独死」のシンプル三文字。ただ、最近といっても3年くらいまえだし、孤独死て……、恐れるまでもなくない? 東京ってそもそもが孤独と死の街だぜ?
おだてたりなだめたり、合理的根拠をもとに不安を論破したりしたのだけど、結局彼はその日じゅうずっと「失敗した……、契約しなきゃよかった…」とうめいていた。立川まで行ったものの、空いている店はなく、空いていても人が殺到していて中には入れなかった。
「てんや」でテイクアウトした天丼をそのへんの路上で食べて、僕はさっき車で来たばっかりの距離を、電車で戻ることになった。
本当にプランのない遊びで、ぐだっていて、遊びというよりはずっと移動していただけだったのだけど、なんかこう、目的があってそこに予定を終結させ、それぞれ最近の生活から話題を持ち寄ってきていて、それが一通り終わったところで楽しかったねって言っていそいそと別れるような感じの遊びかたより、内実が詰まっているというか、……いや詰まってはないですね、ただ、終わったあと、ああこれで良かったなと自信が持てるような気がして、ひさびさに楽しかった。
高校時代とかにとりあえずいつメンで集まるけど、べつにだれも話題はないしやることもないけど楽しかったのと似ている。
その日もらった画像がこちら。近隣住民からは「どこでもドア」と呼ばれているアパートだという。