最高傑作

 

 Twitterに「#自分の中で最高傑作の短歌あげるタグみた人もやる」というハッシュタグがあって、昨年の年末ごろ非常に流れが盛んだった。たんに最高傑作を1こあげるのではなく、4つ挙げて、さらにTwitterの投票機能を使ってみんなはどれが好きか意見を募る、というおおもとのタグの文章にはない文脈までついていた。

 

 タグをクリックしていろいろ見ていたのだけど、やっぱり最高傑作と自分で言うだけあって非常に良い短歌がたくさんあった。

 そのなかでも、スクロールする手をとめて立ち止まってしまったのがこのツイートである。

 

 この中の、とくに①がとても良かった。痣をちいさな夜にたとえる歌なのだけれど、「夜に還る」とちょっとややもすれば悪い意味でかっこよくなってしまいがちな、抽象的に使われている「夜」という言葉に、最後の最後で痣の「すみれ色」っていう、夜を形容するには繊細で写実的な色彩が(痣を経由して)与えられるところがとてもすごくて、最初読んだときは、「悪い意味でかっこいいと思ってしまってごめんなさい」と謝った。

 

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 「予約」「生まれついて」と時間の経過を表す語句が現在を基準にして対称に使われている、という感じがするのだけど、このイメージがわかるでしょうか。なんとなく図*1にしてみましたが……。「痣」と「夜に還る予約」が比喩でつながっているおなじもので、この「痣」「夜に還る予約」の二点でこの短歌は現在にペグ止めされているのだけれど、同時にその二点から伸びる時間的なブリッジがある。

 

 痣という時間的にも空間的にも限られた対象を描いた短歌なのだけど、その限られた対象を、時間の大きさを内包する描写で描いていて広がりがあるのも素敵だし、……ただ時間の流れを内包するだけじゃなくて「予約」「生まれついて」という、主観的な、想像のなかの時間の言葉が使われているので、広がりにはうっすらとした切なさのようなものがあり、それがロマンチックでさらに良い。

 

 これは世界でいちばん良い歌なのではないでしょうか。

 

*1:今度、ペンタブを買います。