スペクタクル、エル・クラシコ

 

 いつも観戦するたびに思うのだけど、日本時間午前5時キックオフの試合って本当に卑怯ですよね。起きているにしても起きるにしても眠たい時間。これから迎える一日が眠気で使い物にならなくなることをわかっていて、中継開始を待っている。手元には眠気覚ましのお茶かコーヒー。……お酒を飲むわけにはいかないので、この試合に興を上乗せしてくれるのは選手たちのプレー以外にはなにもない。

 試合の進みにつれて夜が明けていく。ハーフタイムにふっと一息つくと、窓の外の空が青くなっている。社会のほかのひとたちが朝の支度をはじめるころに我々は、いま見届けたばかりの最高のイベントの余韻に浸っている。

 

 ……もちろん、19時開始の試合(終わったあと酒が飲める)にも、21時開始の試合(観ながら酒が飲める)にも、13時開始(酒が飲める)や8時開始(飲める)試合にも、それぞれの趣というものはあるのだけど、5時からはじまる試合が個人的にはお気に入りだったりするんですね。

 

 そして今回のエル・クラシコもその5時スタートの試合だった。長く好調をキープしていたもののここ数試合調子を崩しているレアル・マドリーが、新規まき直しの時期を過ごしているバルセロナを、本拠地サンティアゴ・ベルナベウで迎え撃つ。

 

 本当に面白い試合でしたね。象徴的な意味でも実質的な意味*1でも重要な試合だったのだけど、どきどきの成分よりはわくわくの成分のほうが強めで見ることができた。

 

 近年はぱっとしないところも多いレアル・マドリーだけど、長らく君臨してきた歴史の重みがもたらす王者の異様というか、理屈では考えられないマジックを引き起こすスピリチュアルオーラみたいなものを、彼らだけが特別に持っていて、この試合ではそれが猛威を振るった。

 

 バルセロナの秘密兵器ブライスワイト*2が交代出場早々決定機を迎え、バルセロナが流れをつかみかけた、と思ったら、その彼の守備時の隙をクロースが突いてスペースにパスを送り、ピケの足に当たるラッキーな形でヴィニシウスJrが先制。

 

 そのあともマルセロが、今年の「その仕事を君がやるんかいアワード」受賞濃厚のスーパータックルで、メッシへのスルーパスをつぶす。あのあとのガッツポーズはアツかった。

 

 しかし圧巻だったのはマリアーノの2点目である。このマリアーノという選手は、一時期クリスティアーノ・ロナウドの後継者として期待され背番号7を背負ったものの、ジダン監督にまったく信頼されず、背番号7もアザールに譲り渡すこととなり、今期は出場どころかベンチにすらまったく入れていなかった。

 

 リードして迎えた後半91分。ジダンベンゼマにかわってマリアーノをピッチに投入する。実質的な意味はない、ほとんど時間稼ぎと選手へのアピールのためにだけ行われたような交代であるのだが、そんなカードですら実を結んでしまうのがこの試合の恐ろしさだった。 

 

 サッカーを見ることの幸せを濃縮したような試合でした。楽しかった~。

*1:スペインのラ・リーガでは、最終戦終了後勝ち点で並んだチームの順位をつけるときに、まず当該チームの直接対決の結果を使う。シーズン前半にカンプノウで行われた第1戦は引き分けだったので、この試合で勝ったチームが、勝ち点0.5ぶんの実質リードを相手に対して追加で得ることになる。

*2:彼はほかにもブライスワイテ、ブライトバイテ、ブレイスウェイト、ブラースワイト、……などなど、確認できただけでも100種類の異なる名前を持っている。