優しい世界のサッカー~2019シーズンJ1リーグ第32節 札幌vs磐田~

 

 今年のJ1リーグはこの試合も含めるとのこりあと3試合。優勝争いと降格争いがもっとも盛り上がる時期に差しかかっている。この試合前の時点で札幌は8位。降格の可能性も上位に食い込む可能性も数字上消滅していて、とくにモチベーションはない。それが災いしてか、最近はリーグ戦での調子を顕著に落としている。

 

 一方の磐田は最下位。この試合で敗戦した場合J2リーグへの降格が決まってしまう。もし引き分けや勝利した場合でも、競争相手である松本と湘南の結果次第ではやはり降格が確定する。かかっているものの重さがつりあわないふたつのチームの対決であった。

 

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 結果はこんな感じになりました。シーズン終盤の降格圏に沈むチームとの戦いは、「背負っているものが大きい相手。必死で来るはず。難しい戦いになるだろう」などといった形容がされることが多い。しかし、相手はシーズンを通した総合力で降格圏に沈んでいるのである。からして、難しい戦いになる、くらいのリスペクトのある表現はしつつも、それでも最終的には勝てるでしょう、くらいの甘い気持ちで観ていた。

 

 試合の入りのときこそ前からプレスをかけてきたものの、札幌のボール保持時、基本的には磐田の前線は札幌のビルドアップ部隊には触らず、中央のゾーンを守っている。札幌が前進すると磐田は割り切って後退する。横幅を使われてもスライドは控えめにし、札幌のワイドに張った選手からクロスが上がってくるまでは我慢し、そのクロスになんとかひとを集めてゴールだけは守る。といった戦いかたをしてきた。

 

 厄介な割り切りかたではあるが、絶対に勝ちが欲しいのは相手のほう。焦らずにポゼッションをして、攻めるというよりはカウンターをもらわないことを基準にポジショニングしてボールを動かす。そういう落ち着いた戦いかたができれば、懸ける思いの大きい相手をうまくいなすことができる。

 

 しかしそんな大人で冷酷なサッカーができないのが僕の応援しているクラブのかわいいところだった。88分に同点に追いついたあと、なぜかオープンな殴り合いを選択。なんでそんなに優しいんだ。そしてそのまま最後の最後にPKを与えてしまう。荒木がそれを真正面に蹴りこんで磐田の勝利。磐田にとっては非常に劇的な一戦となり、もしこのまま磐田が残留するということになったら磐田サポーターたちはこの試合を10年間はずっと忘れないだろう。

 

 まあでもこれでいいのかもしれない。ここ数年の札幌は磐田に重要な勝ち点をたくさん恵んでもらった。そのちょっとした恩返しになったのかなとも思うし、せっかくなので磐田さんには、ここから、奇跡の残留劇を決めてほしい。