ライフ・イズ・ストレンジ

 

 ひさびさにひとつのゲームを熱中してプレイした。とっても面白かったので、以下はその感想である。具体的なことは言いませんが、抽象的な形で終わりのほうまでネタバレを言うのでご注意ください。

 

 タイムラインに印象的な形でこのゲームの話題が流れてきた。ゲームはふだんしないので、ゲームの話題を深堀りするのはすこしためらわれたのだけど(掘ってもどうせたぶんやらないから)、印象的さがそのハードルを越えて、ちょっとこのゲームのことを調べまわってみた。たしかに面白そう。まあ、実際に買いはしないだろうけど、軽くプレイ動画くらいは通しで見てもいいかもな、と思った。ほどなくして、日本語版のプレイ動画を見つけた。

 

 オープニングのムービーでは、主人公は灯台の見える岬にいて、海には巨大な台風。嵐のなかを、息を切らして歩く主人公。台風が停泊していた漁船を風で巻き上げて、漁船は灯台に衝突する。灯台は崩れて、主人公のもとに落ちてくる――。

 そのあと、主人公は教室で目を覚ます。教室では先生がアートの授業をしている。主人公は机に広げている自分の荷物を調べ、……持っていたカメラで自撮りをする。――なんでだよ!と思ったけど、自撮りをすることでゲームはつぎのシーケンスに移っていく。

 

 どうやら、自撮りをすることで物語が進んでいくゲームらしい。そう思ったところでこのゲームは傑作だと確信した。そのまま動画を止め、古びたSteamのアカウントにログインし、ウォレットの残額を確かめた。

 

 そのあとぶっ続けでプレイして、それはそれは面白かった。

 

バディもの

 二人組が活躍するお話が好きという性癖があるのですが、その性癖は「ライフ・イズ・ストレンジ」を楽しむために神が授けてくれたものなのでしょう。主人公のマックスはデニムとTシャツが自分にいちばん似合っていると信じている、ややオタク気質のティーンエイジャーで、スクリーンネームは「マッドマックス」。

 その相方となるクロエはパンクファッションに身を包んで軽トラを運転している非行少女。家でマリファナを喫っている。主人公とは幼馴染で、5年間の別れがふたりにわだかまりを作っている。

 そんなふたりがブラックウェルの学校で起きた銃発砲事件をきっかけに再会、困難に出会うたび、おたがいがおたがいを守ろうとする。

 

時を巻き戻す体験

 主人公(プレイするキャラ)には時を巻き戻す能力があって、これがこのゲームのほとんど唯一といっていいゲーム性であり、ほかには話したり聞いたり物を調べたりするくらいしかできない。アイテムもパラメータも戦闘もアクションもなにもない。*1そのうえ、その時を巻き戻す能力を必要とするギミックもそこまで複雑なものはない。

 このゲームが提供しているのは(ストーリーをのぞけば)徹頭徹尾、時を戻す快感とそのリアリティである。ゲームを進めていくうちに、やべって思ったら自然と時を巻き戻してしまう自分がいることに気づくでしょう。

 

チル・アウト

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 ゲームを進めていくと、噴水や切り株、ベンチなど、ゆっくり座って休めそうな場所が出てくる。

 

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 するとこのように休むことができる。休むとカメラアングルが切り替わり、ゆったりとした雰囲気が流れ、主人公は物思いをはじめる。とくになにかゲームを進めるうえでのメリットがあるわけではないが、かわりに座って時間が流れていくのを楽しむことができる。

 

舞台の解像度

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 アルカディア・ベイというオレゴン州のちいさな港町を舞台にしていて、その造形は鋭い。キャラクターはそのスクールカースト上の位置に応じた服装と体形をしていて、高カーストっぽいキャラには正直話しかけるのもためらわれるほどの、リアルな空気感がある。

 町のダイナーは失業者とブルーカラーの労働者で占められている。登場する家庭はすべからく貧困や宗教や非行で崩壊している。学校ではいじめが横行し、設備は荒れ、それぞれの部屋からはドラッグか抗うつ剤が見つかる。町に未来はなく、若者の娯楽はおなじメンツでなんども繰り返される恋愛かDJパーティのみ。

 そんななかで、登場する主要なキャラクターを、単なる記号ではなく、人格の深みと多面性を浮き出させるような形で描写している。これは本当にすごいことだと思う。

 

ジェンダー論的な観点

 からみても興味深いような気がする。「ライフ・イズ・ストレンジ」に登場する男性キャラの大部分が、暴力、薬物依存、コントロールできない性欲、犯罪、社会からの阻害…、などといった男性に特徴的な問題を抱えている。彼らの問題は作中で解決されることがなく、あくまで主人公バディが立ち向かうゲーム上の仕掛けとして、受け身の存在として設定されている、という感じがする。

 いっぽう、登場する女性のキャラは、それぞれに問題を抱えてはいるものの、自らの問題に対して主体的にかかわる感じの描写がある。

 ミラーリングとして機能するように、というふうに作られているような気がする。

 

ゼロ年代へようこそ

 このゲームを進めていくと最終的には「世界」と「キミ」、どっちを選ぶか?という問いを突きつけられることになるのだが、まさか2019年になってそんな問いで自分が悩むことになるとは思わなかった。

 このゲームには、それぞれの選択肢で、世界中のプレイヤーがどちらを選んだのか、そのパーセンテージを見ることができるのだが、最後の選択肢は拮抗していた。

 

*1:専門的な話になるが、クイックタイムイベントすらもない