FF6という学問分野

 

 ファイナルファンタジーⅥを実際にプレイしたことは全くない。僕はあまりじぶんでゲームをするのが好きではない(自分で動かしたり意思決定をしないといけないのが面倒くさい)が、ゲームのプレイ動画を観たり攻略サイトを読んだり説明書で仕様や内容を確認したりするのは大好きである。

 この、実際にそれを行うのはまったく好きではないけど、それについて書かれたものだったりを読んだりするのは好き、というのは僕のなかで一貫していて、たとえば人生に対してもおなじスタンスが当てはまる。

 

 一秒もプレイしたことないゲームのなかでは、FF6がいちばん大好き。いろいろなキャラクターが群像劇的に絡みあうストーリーが好みだし、悪役含めてそれぞれのキャラがとても好き(とくにセリスとセッツァー、ケフカ)。そしてなによりも、希望を失ってそれぞれのシナリオに閉じこもっている仲間キャラクターをセリスが拾い集めていく崩壊後のシナリオがとても刺さった。(ので、ドラクエ11で似たような展開になったときは、これFF6じゃん!とはしゃいだ。FF6やったことないんですけど)

 

 しかし僕のFF6(遠隔)体験にはもうひとつ重要な要素がある。それはエディさんというFF6研究家があげている一連のやりこみ動画、とくに、「極限低歩数クリア」をめざす動画がそれです。

 

 「低歩数クリア」というのはRPGのやりこみのなかでも、花形の「低レベルクリア」や「タイムアタック」にくらべてそこまでメジャーなものではない。そもそも、ゲーム中で歩数をカウントしてくれる仕様がないと試みすらされないことが多い。ドラクエだと確かゲーム中で歩数を数えてくれるのは、ナンバリング作品ではⅧだけだったような気がする。

 

 FF6には「飛空艇バグ」という有名なバグがある。FF6には、戦闘で味方が全滅してゲームオーバーになると、タイトルに戻るのではなく、そのまま最後にセーブした時点までストーリー進行度を巻き戻すという仕様がある。そこで、飛空艇という空を自由に飛べる乗り物に乗った状態で魔大陸に突入し、そのまま全滅すると、なんと最後にセーブした時点に飛空艇に乗った状態で復帰することができる。

 これを利用すると、ナルシェの炭鉱でティナを守ったあと(実際には魔大陸浮上までセーブなしで進めて全滅する必要があるが、ゲーム内では)そのつぎの瞬間に飛空艇に乗って世界を回ることができる。これによって通常のゲーム進行を破壊し、歩数を大幅に短縮することができるのである。当然、ゲームのストーリーはめちゃくちゃになるが。

 

 その後もちょくちょくと面白いバグの発見・再評価が行われていたが、そんなFF6に新たなるブレイクスルーが起きたのはほんの1年ちょっと前のことだった。機序が複雑でなかなか説明しにくいが、ゲーム内の特定の場所で使われている内部的なタイマーを本来は想定されていないほかの場所へ持ち出すことで、強制イベントをスキップ可能にする「シドタイマー持ち出し」という革命的なバグが発見され、それによりFF6のやりこみは新時代を迎えることとなった。

 シドタイマーの興奮が冷める間もなく、パーティーを分割して行動するシナリオ上の状態を利用して操作キャラを好きな座標にワープさせることができる「テントバグ」、テントのイベントをタイマーでスキップすることにより、なぜか魔大陸上昇フラグを立てることができる「テント回避」、パーティー分割状態を全マップに持ち出すことのできる「幻獣防衛線離脱」、任意のマップでNPCを消したり出現させたりすることができる「ドアタイマー」、といった大技が相次いで報告された。

 

 大革新に次ぐ大革新。このFF6の現状は19世紀末~20世紀初頭の量子力学の分野で起きた連鎖するいくつものブレークスルーを思い起こさせる。

 

 「ドアタイマー持ち出し」を報告したこの動画は、最初みるとFF6経験者でもまったく意味不明だと思うが、背景を理解したうえで再度見るとその複雑な手順(のちに簡略化されたようだが)の巧妙さとエレガントさにため息が出る。とくにフィガロ城地下のいっぴきおおかみを消した瞬間は涙が出た。一匹おおかみを消せるということはあの歴史に消えた理論、「ベクタ飛ばし」が復活するということで……、感動!

 

 大量の新事実の発見により、FF6がいったい何歩でクリアできるのか、世界じゅうのだれにも予想ができない状態となっているが、それを解き明かすのはきっとこの方になることでしょう。この風雲急を告げる情勢のなか、つぎはどんな新事実が発見され、それをもとにしたどんな攻略理論が構築されるのか。動画の更新を待ちわびています。