UCL Finalの前夜、あるいは一般に、愛というのはどのように生じるのか?

 

 欧州サッカーにはまった。もともと、Jリーグは応援していて、北海道コンサドーレ札幌が勝っている時期と負けている時期では露骨に性格が変わる、という生活を送っていたが、海外のサッカーについてはなにも知らなかった。メッシとクリスティアーノ・ロナウドの名前を知っているぐらい。

 

 とあるきっかけから今年はヨーロッパのサッカーを見始めた。最初はただ見ていただけだったけど、いつの間にか好きなクラブができた。サッカーはただ見ているだけでも良いものだが、応援するクラブができると、より素晴らしいものになる! ……と言いたいところだけど、実際には不愉快な思いをすることも増えるので収支はプラマイゼロかすこしマイナスくらいだと思う。まえになにかの記事で見たのだけど、サッカーのサポーターであるようなひとびとの平均幸福度は、そうでないひとびとの平均幸福度より若干低いらしい。実感からすると、まったくそのとおりだと思う。

 

 であるからして、贔屓のクラブを作るということは合理的な行動では決してない。それはあらがえない本能的なLOVEの感情なのでしょう。どのようにしてひとはクラブを好きになるのか? あるいは一般に、愛というのはどのように生じるのか? 僕のこの一年を振り返りながら確認していく。

 

STEP1 ~出会い~

 舞城王太郎の小説のなかに例外がひとりいるが、原則としてひとは出会ったことのない相手を好きになることはない。僕の欧州サッカーとの出会いは、2018年のロシアワールドカップだった。この大会ではもちろん日本代表を応援していたんだけど、ほかの国同士の試合もかなり見ていた。

 

 目についた選手が、ハリー・ケイン。そもそもイングランド代表の戦い方がけっこう好きで(世間ではクソサッカーだと言われていたが、僕はけっこうクソサッカーが好きみたいなところがある)、そのなかでも、どちらかというと専門家タイプの相方スターリングとは違って、ひとりで前線の選手に求められるすべての動きを完ぺきにこなすことができる全能さがかっこよかった。

 

 もうひとり目についたのが、クロアチア代表のルカ・モドリッチYouTubeにあるスーパープレイ集を先に見ていたので、ファンタジスタタイプの選手なのかなと思っていたら、その通りだったんだけどそれ以上に走る。動きの量とカバー範囲が尋常じゃなく、プレーのスピードも質も判断も素晴らしい。フットボールの博士であり労働者であり芸術家であるような選手だった。

 

STEP2~第一印象が肝心~

  ワールドカップで活躍した選手たちがまだ見たくて、欧州サッカーを見始めた。ヨーロッパにはたくさんクラブがあったけれど、不思議なもので、まったく前情報がなくても、なんとなくの好き嫌いがすでにあったりする。ぱっと見で、なんか、好きかもと思うようなクラブもあれば、君のことよくわからないのに申し訳ないけどちょっとごめんなさい…、と思うようなクラブもある。

 

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 なんでこうなったのかは聞かないでほしい。本当にただの印象でなにひとつ理由はない。もちろん、右側や下側に書かれているのはどれも良いクラブで良いチームです。

 

 最初はなんとなくいろいろなチームの試合を見ていたが、しだいに収束していくことになる。イングランド・プレミアリーグではトッテナム・ホットスパー君、スペインのラ・リーガではレアル・マドリー君のことがちょっとずつ気になってくる。

 

 ただまだこの段階では、なんとなく無意識に目で追ってしまうという程度であり、好きだという自覚は芽生えていない。

 

STEP3~苦しいときをともに、そして芽生える想い~

 上であげたようなクラブはすべてメガクラブであり、普段戦う相手は基本的に全員格下である。なので毎回毎回主導権を握る、気持ちのいい試合を見せてくれる。ストレスフリーでいいなあ、と思っていたら、さっそくレアル・マドリーが負け始めてきた。

 

 レアルは負けるときはけっこうおもしろい負け方をすることが多いので最初のうちは負けても笑って見ていたが、3月頭に不倶戴天の敵バルセロナに3連敗したころにはもう笑うことはできなかった。

 

 トッテナムは(同格以上の相手にはあまり勝てなかったが)そこそこ順調に勝ちを重ねていた。チャンピオンズリーグのベスト16も危なげなく抜け、迎えたのはマンチェスター・シティとの準々決勝。正直僕はトッテナムはシティには勝てないと思っていた。そして僕はレアル・マドリー君のせいですでにけっこう幸福度が下がっていた。打算が頭をよぎった。「ここで、トッテナムを応援してしまったら僕はさらに不幸になるのではないか?」なるべく、中立な気持ちで試合を観ようと心掛けた。トッテナムの選手だけではなく、シティの選手がいいプレーをしたときにもなるべく拍手を送るようにしていた。一戦目こそ1-0で勝利したものの、正直このリードがあってシティとは五分五分だと思っていた。

 

 そしてあの第二戦。開始11分で両チーム合わせて4点が入った。応援なんてしなくていい。はたから見ているだけで充分のショーだった。のは間違いないけれど、僕はもう、見ているだけではいられなかった。ソン・フンミンの2得点には声をあげて喜んだし、デ・ブライネやスターリングにいい形でボールが渡ると「助けてくれ!」と思った。シソコが負傷退場したときには「終わった…、このまま息を止めて自殺しよう」と思ったが、ジョレンテの膝ゴールでなんとかまた息ができた。そして後半アディショナルタイム、スパーズの核(コア)だったエリクセンが致命的なパスミスをして、その隙を見逃さない鬼のような仕事人スターリングがシティの5点目を決め、シティがスパーズを下し、チャンピオンズリーグベスト4進出を決めた……。

 

 後悔が頭をよぎった。好きになってしまうから、こんな苦しい思いをするんだ。いや、まだ間に合う。僕はまだスパーズのことが好きではなかった。多少応援してはいたものの、まだ好きってほどじゃなかったと言えばそうも言えるし、ぜんぜん悲しむ理由はない。次はシティを応援しよう。よし、そういうことにしよう。そう思ってもともと好きではなかったということにした。そのつぎの瞬間、ビデオ判定でスターリングのゴールが取り消しになり、スパーズは準決勝進出を決めた。

 

 そのとき僕は思った。ぶれずにこのクラブを好きでいて、本当に良かった…。

 

STEP4~喜びの時間をともに~

 そのあともスパーズは、苦しみながらもなんとかプレミアリーグで目標となる4位を達成、チャンピオンズリーグ準決勝では歴史に残る大逆転劇でアヤックスを下し、クラブ史上初となるチャンピオンズリーグ決勝への進出を決めた。スパーズはクラブの歴史のなかでもいちばんの栄光の時代にいるらしかった。もうすこし早く君のことを知って、いっしょに歩めていたらなあと思うことはあるが、人は時間を巻き戻すことはできず、僕にできるのは、ただ、ひとつひとつの試合をしっかり信じて見届けることだけである。

 

 一方、レアル・マドリードは相変わらず面白い負け方を続けていたが、来シーズンに向けての準備もできてきた(と信じている)ので来年も期待している。

 

 さて、今シーズンの締めくくりとなる、チャンピオンズリーグ決勝トッテナムvsリヴァプールの試合は今夜28時から行われる。本当にどきどきしてる。サッカーに限らず、なにかを好きになることはちょっと不幸になることなのかもしれないけど、そのどきどきの最中にいるときは、それくらい安い代金だって思えるものだったりする。

 

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 勝てますように……!